アルツハイマー病

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アルツハイマー病と既存の治療薬

平成23年の厚生労働省の資料によると、高齢者に占める認知症有病率は14.4%であり、超高齢化社会を向かえる2025年の日本国内における認知症患者は、320万人にのぼると予測されています。老年期認知症患者の大半はアルツハイマー病(以下、AD)患者です。AD患者の脳内には、アミロイドβペプチド(以下、Aβ)が蓄積した老人斑が形成され、臨床症状としては、知的機能の障害、運動機能の低下、人格の変化などを呈します。ADの治療薬としては、1999年にドネペジル、2011年にガラタミン、リバスチグミン、メマンチンの4薬が本邦で承認されていますが、これらは対処療法薬になります。根治治療を目指したA βに対するヒト化モノクローナル抗体医薬も期待されていましたが、開発中止が報じられるなど、根治治療の新薬の登場はまだ先になるとされています。

Aβ分解酵素ネプリライシン(NEP)

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正常な脳内でもAβは産生されていますが、Aβの分解系がバランスをとることで一定レベルに維持されています。しかし、遺伝的要因や脂質代謝異常などの複合的な要因からAβが過剰蓄積すると、ADは発症します。Aβの分解に関する酵素の1つに、Ⅱ型膜貫通型メタロエンドペプチターゼのネプリライシン(Neprilysin、CD10、以下、NEP)があります。AD患者では、NEP活性が減少しているため、減少したNEPを補完する治療戦略が有効と考えられています。

脂肪由来間葉系幹細胞とNEP

当社は、独立行政法人がん研究センター研究所と、脂肪由来間葉系幹細胞によるAD治療方法の開発に関する共同研究を実施しています。脂肪由来間葉系幹細胞は、骨髄由来間葉系幹細胞と比較して約4倍量のNEPタンパク質を発現し図1、さらにexosomeにおけるNEPタンパク質の存在を初めて報告しました論文1。exosomeはmRNA、microRNA、タンパク質などの分子を細胞間でやり取りする際に細胞が分泌する小胞であり、パラクラインな細胞間伝達の担い手として近年注目を集めています。Aβを分解する酵素はNEP以外にも存在が知られていますが、脂肪由来間葉系幹細胞から調製したexosomeにおいては、Aβ分解活性のほとんどがNEPタンパク質でした図2。これは、exosomeのタンパク質1ug中に、0.26±0.07ng(n=4)のリコンビナントNEP活性に相当する量が存在することを示しています。さらに、Aβを高発現するよう改変された神経芽腫細胞であるN2a細胞株(西道隆臣博士から寄贈)を用いた検証により、N2a細胞株と脂肪由来間葉系幹細胞から調製したexosomeをインキュベーションした際に、exosomeがN2a細胞株に伝達されることを確認しました。

<ネプリライシン発現>

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(図1) 脂肪由来間葉系幹細胞と骨髄由来間葉系幹細胞のネプリライシン発現の比較

<アミロイドβ分解活性>
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(図2)脂肪由来間葉系幹細胞から調整されたexosomeのAβ分解活性(左)。ネプリライシン特異的阻害剤による脂肪由来間葉系幹細胞から調整したexosomeのAβ分解への影響(右、exosomeの全活性中89.6±0.4%はネプリライシンによる。n=4)

参考資料 (リンク:1.3.1.3 論文発表・学術情報)
1【論文】Katsuda T., et al., Human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells secrete functional neprilysin-bound esozomes. Sci. Rep. 2013;3:1197. doi: 10.1038/srep01197

脂肪由来間葉系幹細胞によるAD治療の可能性

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要介護老人のうち半数には認知症の症状が認められています。認知症の治療または予防は、医療介護費用の削減につながり、また、健康寿命を延長することは、高齢者の労働力を経済活動に反映することにも貢献できると期待できます。AD認知症の治療等に必要な費用は世界で12兆円規模と試算されており、これは、罹患者が多いにもかかわらず、根治薬が存在しないことが影響しています。Exosomeは幸い血液脳関門を通過することが示されており、細胞自体を用いたAD治療だけでなく、exosomeを用いる治療プロトコルに関しても、ADの治療法の1つとして、更なる研究の価値があると考えて取り組んでいます。

特許戦略

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バイオミメティクスシンパシーズでは、再生医療関係の研究開発を通て培養に関する「要素技術」、「応用技術」、「支援技術」について特許出願中です。