論文発表/学術情報

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アルツハイマー病

アルツハイマー病(AD)の病理学的な定義は、アミロイドβペプチド(Aβ)の脳内蓄積である。脳内におけるアミロイドβの濃度を決定する3 つの要因は、(i)アミロイドβ前駆タンパク質APPからのアミロイドβ産生速度(ii)血液脳関門を超えるアミロイドβの輸送速度、そして(iii)脳実質でのアミロイドβ分解の速度である。ネプリライシン(CD10)は脳にあるアミロイドβ分解酵素であり、それゆえにアルツハイマー病治療の標的となりうるものである。最近我々はDNAマイクロアレイ分析によってヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hAT-MSC)がネプリライシン遺伝子を発現することを発見した。本研究において我々は、hAT-MSCの治療上の可能性について結果を報告する。

アルツハイマー病は、脳機能障害を主症状とする神経変性疾患である。日本では2020年、80歳以上の約1割が認知症となり、その約7割がアルツハイマー病と予測されている。このため、予防法・0治療法の確立が早急に望まれている。アルツハイマー病の原因として考えているのがアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積や濃度の上昇による神経細胞の死滅である。今日のアルツハイマー病治療は、このAβが原因であるという仮説に基づき、Aβの除去の為にβセクレターゼ(Aβ産生酵素)やγセクレターゼの阻害薬など、アミロイドに対する免疫療法が治験などで用いられているが、強い副作用を理由に多くの治験が中止となっている。Aβはアミロイド前駆体タンパク質がβセクレターゼやγセクレターゼという酵素によって切り取られる事で産生される。根本的治療には脳内のAβの量を低下させる事が必要となる。また、Aβの分解過程にはタンパク質分解酵素であるネプリライシンが関与しており、加齢やアルツハイマー病の進行とともに低下してしまう事が証明されている。脳内のネプリライシン活性をあげることができれば、アルツハイマー病の病状を緩和する事が出来ると考えられている。本研究はアルツハイマー病に対する治療効果を予測するため脂肪由来間葉系幹細胞と骨髄由来間葉系幹細胞から産生されるネプリライシンの発現量を比較した。

 

粘膜免疫

脂肪由来幹細胞は赤血球、上皮細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、および骨芽細胞に分化可能で、その再生能力は数々の臨床実験で示されている。老化による腸管粘膜免疫システムの破綻も周知の事実であり、抗原特異的分泌型IgA(SIgA)抗体の低下が老齢マウスにおいて報告されている。そこで本研究では、脂肪由来幹間葉系細胞(AMSCs)による老齢マウスの粘膜免疫機能の回復の可能性について検討した。1年齢のマウスにAMSCs (2 x 106/マウス)を移入し、8 ヶ月後に卵白アルブミン(OVA, 1 mg)と粘膜アジュバントであるコレラ毒素(CT 10 μg)の混合液によって経口免疫を行った。OVA特異ELISAにより、糞便抽出液中の粘膜SIgAと血清中のIgG抗体の上昇がAMSCs移入マウスにおいて確認された。OVA刺激後のCD4 T 細胞によるサイトカインの産生を調べたところ、IL-4の上昇がパイエル板由来のCD4 T 細胞で認められた。また、腸管粘膜固有層においてはCD4 T 細胞によるIFN-gとIL-4の産生が上昇していた。一方、AMSCsを移入していないマウスではこのような抗原特異抗体やサイトサイン産生の上昇は認められなかった。興味あることに、胸腺における全細胞数とダブルネガティブ細胞の 割合がAMSCs移入マウスにおいて増加していた。これらの結果は、老齢マウスにおける低下した粘膜免疫機能と胸腺の再生におけるAMSCsの主たる役割を示している。

 

歯科領域

歯科臨床において、完全脱臼を伴う外傷に遭遇することが多い。完全脱臼した歯を再植した場合、再植歯の予後を左右するのは再植歯周囲の歯根膜細胞の状態である。我々は、イヌ外傷モデルの確立を行い、再植に伴う外部吸収のメカニズムの解析を行なってきた。今回in vivo Micro CT で同一イヌ個体を経時的に観察し、脂肪由来幹細胞(Adipose Tissue Derived Mesenchymal Stem Cell:以下AD-MSC)をイヌ外傷モデルに応用し、新たな知見を得たので報告する。

現在、歯科領域における再生治療としては、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)を分離・培養し、各種骨芽細胞誘導因子により分化・誘導した後、歯槽骨吸収部位への細胞移植が広く研究されている。BM-MSC は骨髄液を採取するため、患者に対する負担が非常に大きく、生物材料由来ウィルス感染の危険が伴っていた。そこで、我々はこの欠点を持たない、脂肪由来間葉系幹細胞(Ad-MSC)に着し、細菌学的評価、臨床所見、およびマイクロCTにおいて骨吸収像が認められる歯周病罹患ビーグル犬に対して、Ad-MSCを移植し検討を行ったところ、若干の知見を得たので報告する。